第二話 

テメーラにはらかるメェ!
小諸市の街頭の下でメモする。「3:09、130.2q、-6.5℃」。長野まで後50qあまり、1時間半ってとこかナ。エンジンはしっかり1,000回転でアイドリングする。「寒くなんかないヤイ!」って感じで、やっぱり生身の体と機械の違いか。
前に大型トラックが2台走っている。遅い。3段落とし、半クラにして8,000回転、ギャーン、と、なんとトラックは3台。しかも前からはバスが予想外の速さで近づいてくる。ヤバイ!一瞬「マッドマックス」のワンシーンが頭の中をよぎる。抜けない、先頭と2台めとのすき間に入る。その瞬間バスが通過する。アーコワ!!どうも神経が鈍っているようだ。
上田市。「3:30、153.5q、-7℃」。メモを取るのが目的で走ってるみたいだ。いや、ふえていくキロ数が、今の俺を走らせてるんだ。眠気を感じ、さっぱりしようとシールドを上げると、フェイスマスクの口のあたりがバリバリ。メットの中で「真夜中のドア」を口ずさむ。わからなくなると同じところの繰り返し。頭が重い、気がつくとまわりに車の光が無い、ひとりきりだ。対向車がくるとホッとする。
更埴市。「4:04、177.0q、-6℃」。長野まであとチョイ。路面は所々凍ってるけど雪は無い。予想外のことで、MCにとっては非常にありがたいことなんだ。
長野市の標識が目に入る。やったァ、とにかく3分の1は走りきったんだ、ところで長野って県庁所在地だろ、俺の知ってる宇都宮や前橋とどことなく違うナ、夜だからかナ?なんて思ってるうち、セブンイレブンのある信号を直進してしまう。上越は右となってたみたいだけど・・・300m行って、ウン、やっぱり間違ってたみたいと感じてUターン。ついでにMCを止めて小便をする。さすがに冷えるから近いワ。しかしその行為に至るまでが大変で、サロパンのファスナーを開け、トレパンを下げ、インナーウェアのファスナーを上げると、やっとグンゼYGのパンツに到達するが、凍えた指でやるもどかしさ。
星、もう空一面に散らばっている星を見てする。アレ?地面もキラキラ光ってるぞ・・・ことばすとつま先がジーン。コンクリート並に凍ってる。「5:05、193.2q、-5.5℃」。
この先どうなるかわからないから何か食っておかなくちゃ、というわけで、さっきのセブンイレブンで休むことにする。客の大部分はスキーにいく諸氏で,MCライダーの俺は注目される。カップめん、中華まん、ガム、チョコレート、ドーナッツを買い込み、店内で中華まんを食べ、さらにドーナツも押し込む。それにしても暖かいこと、寝込みたくなるワ。でも行かねばならぬ日本海!と思いつつも15分ほど休憩。
表へ出てGSに火を入れると、数人のアンチャンが「ヘェー、土浦から」、「やっぱり寒い?」、「バイクでネェー」etc...。そのニュアンスが軽蔑なので、非常に気分が悪かった。しょせんテメーラにはらかるメェ!

“1uの部屋”で仮眠
道路情報では「野尻・妙高方面全面凍結」となっている。そこまでに少しでも時間をかせごうと思うが、やはり60q/h以上はつらい。ここらあたりからは去年の夏に走ったはずだが、記憶と一致する所はどこにもない。野尻湖まで23q、18q、16qと近づくにしたがい、左へ右へのコーナーの繰り返しとなる。
信濃町。「5:49、221.9q、-8℃」。ふっと気が付くと、周りの山はだや畑が青い光を発している。一面の銀世界。対向車はチェーンを地面にたたきつけて走っている。路肩には50cmくらいに雪が積まれている。夜明けはまだだし、それに雪道じゃ走れないだろうと考え、道端の食堂の前の電話ボックスの中で休むことにする。
チョコレートを食べ、コンロでボックスのまわりにある雪を溶かして紅茶をいれるが、暖かさはまったく感じない。無性に眠い。コンロの燃焼音が心地よくささやく。バックに腰掛けていたら寝てしまった・・・いや、完全には眠っていない。友達のいる風景を見て、話しかけている。そして頭の中ではこれは夢なんだと理解している。もう寒さは感じない。
車の止まる音で正気に返る。だいぶ明るくなったようだ。だがもう少し“1uの部屋”にいよう。−−二度目に目を開けたときには、もうライトなしでも走れるほどになっていた。40分もたっていたがGSは1発で起きる。
走り出すとすぐアイスバーンになった。この先の妙高越えを思いゾーッとする。30q/h弱のスロー&スロー。もちろんノーブレーキで、何とか前に進むってところ。しかし、ストレートでもカウンターが必要なんだ、この道は。オットットと足をバタつかせながらも関川を越えて新潟県に入り、今回初めての写真を撮る。両側には2〜3mの積雪。
もうダメだナと、消防署の前で、このツーリングのために買ったチェーンを巻く。で、その効果はというと、なんとまっすぐ走るのです!急激なスロットル操作をするとさすがにスキッドをするけどそれがまた面白い。後輪のトラクションの大切さを再発見。もっと早く巻けばよかった。問題は、見た目にひ弱なチェーンがどの程度もってくれるかということだけだ。

つづく。


第一話に戻る  最終話を読む