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マレーシアの風景 ジャングル(KUANTAN郊外) -1998年 



彼が低く口笛を吹いた
大きなバナナの葉の日陰に座り込んで
肩で荒い息をしていた彼女が顔を上げる
「どうしたの?」
「風を呼ぶんだよ」と彼は笑顔で答えた
「マレーシアスタイル?」と彼女
答える変わりに、再び口笛
真似する彼女
彼の音色には程遠く
「風が逃げる」と言って大笑い
ヒルクライムを登りきって開けた所
影は鮮烈なコントラストを乾いた大地に
焼き付けている

今 太陽は真上にある

風が吹いてきた
静かだった森に木々の囁きと虫の音が
想い出したように拡がっていく
そこはマレー半島の南シナ海に近い
熱帯性植物の結界
オイルパームツリーのプランテーションを抜けて
オフロード用のモーターサイクル以外走ることが
困難になる

過去 四輪駆動の作業車が走ったトレイルは
幾度かのモンスーンを経た後では
孤高の森を守かのように荒れ果てている

唯一 そんな森に住むニンフと
対話する事を許されているのは
オフロードライダーだけだ

人類が生まれた時代から
姿を変えることのない
赤道直下のこの国の森は
「ジャングル(Jungle)」と呼ばれる

文明から離れて暮らす
オランアスリ(先住民族)が
生きて行けるほど豊かであり
そんな彼らから森の人と呼ばれる
オラウータンやタイガー、エレファントと
いった動物達も、そこで生きている
そんな森の空気を呼吸して同化するなら
自然に生かされている自分と
生命は連鎖して
無限の宇宙にある事を知る